熊は黒ちやんでも、なか/\悪口は達者と見えます。
「アイタタ、まあひどいのネ此《こ》の児《こ》は。母ちやんのお乳から、こんなに血が出るぢやないの。」
お母《つか》さんは、ちよいと睨《にら》む真似をしました。
「お乳は嫌、もつと/\旨《おい》しいもの頂戴。」
「そんな無理を、お言ひで無い。それは親不幸といふものです。」
「不幸でもコーコーでも宜《い》いワ。もつと旨《おい》しいもの食べさしてお呉《く》れ、え、おツ母《か》さん。」
「仕様が無いね。此の子は、」とおツ母さんは暫《しばら》く考へてゐましたが、
「坊やは何が好き? 蟻《あり》? 栗《くり》?」とたづねました。
「嫌だ/\、そんなもの皆《みん》な嫌だ、もつともつと甘くつて旨《おい》しいものが欲しい……」と、黒ちやんはいひました。
「困つた事を言ふのネ、あ、さう/\蟹《かに》……、蟹を食べた事があつて? あの赤アい爪《つめ》のある、そうれ横に、ちよこ/\と這《は》ふ……」と、お母さんは、また優しくいひました。
「食べた事無いワ、蟹なんて……そんな物|旨《おい》しい? え、本当に旨しい?」
「えゝ/\、夫れは本当に旨《おい》しいの
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