でほろほろと、うれしなみだを流してゐました。
三月の終に、石之助も茂丸も中学校の入学試験を受けました。石之助が一番、茂丸が三番で入学しました。それを見た金太夫さんは、中学校の鉄側時計も、石之助さんのものだと、思ひました。
中学の一年から二年になる時、石之助が一番で、茂丸が五番でした。三年になつた時、石之助が一番で、茂丸が七番でした。四年になつた時、石之助が一番で、茂丸が九番でした。
いよいよ卒業の時が来ました。卒業式には県知事さんが来ました。髯の白い家老さんも来ました。そして殿様の定紋を刻みつけた鉄側時計は、石之助に下さいました。
町の小い新聞には、大きな活字で、石之助のことを、ほめてほめて書いてありました。
茂丸は十番で卒業しました。身体《からだ》が弱くて時時休んだからでした。けれども、東京へ出て、高等学校の入学試験を受けますと、石之助も茂丸も入学は出来ましたが、どうしたものか、今度は石之助が五番で、茂丸が一番でした。
石之助は何だか、殿様に申しわけがないやうに思ひましたが、国を出る時お父さまの佐太夫から、
「試験がすんだなら、すぐ殿様の所へ、お礼に行くんだぞ。」と、言
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