番になるよ。」
石之助は手をたたいて、ざしき中をはねまはりました。お父さんの佐太夫も喜びました。
お隣の金太夫さんは、たうとう硯箱は石之助さんのものだと言つて、ほろほろ涙をこぼしてゐました。けれども茂丸は、
「なあに、落第しつこはないよ。」と、言つて、おふとん[#「ふとん」に傍点]の上で童話の雑誌を読んでゐました。
卒業式の日が来ました。いろいろの式があつたあとで、山野《やまの》紀伊《きい》の守《かみ》の家老を務めてゐたといふ髯《ひげ》の白い老人が、殿様の代理で、
「本年から優等生に、旧藩公山野子爵閣下より、御定紋付の硯箱を下さることになりました。」と、申しました。そしで、校長さまから、
「粉白石之助《こしろいしのすけ》……」と、呼ばれた時の石之助の喜びは、口にも筆にも現はせないほど大きなものでした。
式が終つて、おうちへ帰りますと、佐太夫は、早速|其《そ》の硯箱を仏壇の前にそなへて、
「お父さま。お母さま。おぢいさま。おばあさま。喜んで下さい。今度せがれの石之助は、殿様から御定紋付の硯箱を頂きました。どうぞ石之助をほめてやつて下さい。」と、申しました。おつ母さんも、仏壇の前
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