も殿様から、硯箱をもらはなければならないと思つて、必死に勉強しはじめました。
一月二月がすぎ、三月が来ました。卒業試験が近づいてきたのです。けれども正直に言ふなら、算術は茂丸の方がよく出来ます。習字も茂丸の方が上手です。どうも茂丸の方が一番になりさうです。だから何とかして、茂丸を二番にする方法はないものかと、考へてばかりゐました。
茂丸は石之助よりも、からだが弱いので、あまり勉強はいたしません。お父さまの金太夫《きんだいふ》さんが、いろいろと硯箱のことを言ひますが、茂丸は唯《ただ》にこにこ笑つてゐて、そんなものをほしいとも何とも言ひません。金太夫さんは、茂丸には勇気がなくていけない、やつぱり平民の子はだめだと、言つてゐました。
いよいよ卒業試験が始まりました。ところが、二日目の算術と綴方の試験の日、茂丸はひどく熱を出したので、学校を休みました。
石之助は試験がすむと、おうちへとんで帰りました。そして、
「お父さま、大丈夫硯箱はもらはれますよ。」と、申しました。
「大丈夫か。」と、佐太夫《さだいふ》は申しました。
「大丈夫です。今日は茂丸さんが、熱を出して休んだから、きつと僕が一
前へ
次へ
全10ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
沖野 岩三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング