帰つて、
「愚助、御飯をお食べ。」と、申しました。其の時はまだ午後の一時頃でしたが、愚助は少うしお腹《なか》がすいてゐましたので、早速大きなお茶碗《ちやわん》に山盛り三杯食べました。それを見て、お父様は、
「うん、大丈夫だ。」と、いひましたが、今度は少し怒つたやうな声で、
「愚助、ここへお出《い》で。」と、申しました。
 愚助は不思議に思ひながら、お父さまの傍《そば》へ近よりますと、お父様は、いきなり愚助の頬《ほほ》つぺたを、ぴしやりと殴《なぐ》りつけました。
 木の皮みたいな、がさがさした手の平で、ひどく殴られたので、愚助はひいひいと泣きました。愚助が泣くのを見て、お父様は、
「うん、大丈夫だ。和尚様のお弟子になれるぞ。」と、申しました。
 それからお父様は、着換《きがへ》だの足袋だの、学校道具だのを風呂敷《ふろしき》に包んで、愚助に脊負《しよ》はせて、お寺へつれて行きました。それを見た和尚様は、にこにこ笑ひながら、
「あ、愚助か。よく来た、よく来た。」と、言つて、直ぐお弟子にして下さいました。

 愚助《ぐすけ》はお寺から学校へ通ひました。和尚様は、愚助が帰つて来ると直ぐ今日習つた
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