は元気よく言ひました。で、大臣は早速町へ行つて蚊帳を一つ買つて来てそれを殿様に差上げました。
万作は多勢に見送られて、十二年前に越えて来た山坂を越えて自分の国へ帰つて見ますと、いつの間にか、お父さんはお爺《ぢい》さんになり、おつ母さんはお婆《ば》アさんになつてゐました。
「おや! 万作ぢやないか、まあ大人になつたネ。もう幾つになつたのかい。」
おつ母さんは嬉《うれ》しさうな顔をして聞きました。
「十二と十二とです。」万作は元気よく返事をしました。
「十二と十二?」お父さんは笑ひながら万作の抱へてゐるものを見て、「それは何ぢや。」と問ひました。
万作は、につこり笑つて、
「蚊帳です! もうこの蚊帳があれば今年の夏は煙い辛抱《しんばう》をしなくとも宜《い》いです。障子を閉めきらないでも宜いです。これを十二円で買つて貰つて来たのです。喜んで下さい。」と元気よく言ひました。爺さんも婆アさんも大層喜んで今年は早く夏が来れば宜《よ》いがと思つて、蚊の出る頃《ころ》を待つてゐましたが、ブーン、ブーンと唸《うな》つて一|疋《ぴき》二疋蚊が出て来ると、
「蚊帳だ! 蚊帳だ!」と大騒ぎをして、それを
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