美しい美しい御殿の中へ伴《つ》れて行かれました。
 それから毎日々々いろ/\なむづかしい事件が起つてそれを申上げても、万作には何の事やら判《わか》らないのでいつも黙つてゐました。だから人民たちは、
「何を申上げても黙つてゐらつしやる。我々の申上る事は皆《みん》な馬鹿《ばか》らしくて御返事が出来ないのだらうから、もう我々も黙つて働かうぢやないか。」と言ひました。
 それからといふものは、この国には喧嘩《けんくわ》もなければ裁判もなく、人の悪口を言ふものも無ければ、それはそれは皆《みん》ながおとなしいおとなしい唯《ただ》黙《だま》つて一生懸命に働く人達《ひとたち》ばかりになつたので国中がだん/\金持になりました。
 月日の経《た》つのは早いもので、万作がこの国の殿様になつてからもうお正月を十二度迎へました。さア明日は十三度目のお正月だと云《い》ふ時、万作は急に、
「私《わし》は今日から国へ帰る!」と云ひ出しました。
 人民たちは皆《みん》な集つて来て、
「何卒《どうぞ》いつまでも/\殿様になつてゐて下さい。」と申しましたが、万作は頭を横に振つて、さつさと御殿を出て行きました。
 そこで大蔵
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