く》に渡して、こんな事を言ひました。
「この中には大事の大事の宝が入つてゐる。これを万作さんにあげます。あなたは今日から十二年間隣の国の殿様になるのだが、その間決して袋の中を見てはいけない。十二年|経《た》つて殿様を廃《よ》して家《うち》へ帰つた時、お父さんと、おつ母さんとにこれを御土産になさい。」と云《い》ひました。
 万作はその袋を押頂いて、
「有難うございます。では私が今から隣の国の殿様になるのでございますか。」と云ひましたが、ふと顔を上げてみますと、もうそこには最前の爺《じい》さんはゐませんでした。不思議だナと思つてゐる中に、俄《にはか》に麓《ふもと》の方で人声が喧《やかま》しく聞えました。万作は立上つて何事だらうと思つて覗《のぞ》いてみると、何百人か何千人か知らないが、百姓や商人《あきんど》や職人|達《たち》が多勢てんでに紅《あか》い旗を打振つて山をこちらへ登つて来るのでした。
「はて何だらう?」
 万作は木の株の上に立つたまゝ凝《じつ》と見てゐると多勢はだん/\と近寄つて来て、万作の姿を見るや否や一斉に、
「殿様がゐる! 殿様がゐる! 万歳!」と叫びました。万作は呆然《ばう
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