ですから、お腹《なか》が空《す》いてもう一歩もあるけなくなりました。で、仕方がありませんから、大きな木の株に腰を掛けて休んでゐました。すると万作は睡《ねむ》くなつて来て、いつのまにか、うと/\と眠つてしまひました。
「おい! 万作さん!」と大きな声で呼んだものがあるので万作は吃驚《びつくり》して眼《め》を開けてみると、そこに白い髯《ひげ》を長く伸《のば》した老爺《ぢい》さんが真白《まつしろ》い着物を着て立つてゐました。
「あなたはどなたでございます? 私は万作ですが……」
「私《わし》は仙人《せんにん》ぢや。お前に用事があつて来たのぢや。」
「どんな御用でございます。」
「私《わし》はこの隣国の殿様になる人を一人見付けたいと思つて今まで尋ねてゐたのぢや。」
「では爺《ぢい》さん、私をその国の殿様にして呉《く》れるのですか。」
「うん、さうぢや。今から私《わし》は万作さんを隣の国の殿様にするから、さあそこへきちんとお坐《すわ》り。」
「はい、畏《かしこま》りました。」
 万作が土の上へ坐つた時、爺さんは懐から小い袋を取出しました。


    三
 老爺《ぢい》さんは小い袋を万作《まんさ
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