ある。それだったら、会って話してみたかったと思ったが、どうせ会った所で詩人でなく美術家でない、散文的な私のことだ、先方に迷惑をかけるだけと思って、訪問にも出かけなかった。
      *
 カリフォルニヤ大学のカムパスの中央に聳え立つ高塔《カンパニール》は花崗石を三百七呎の高さに積み上げたルネッサンス式の建築である。ヴェニスの聖マークの高塔よりも僅か二十一尺の低さで、大学のカムパニールとしては、凡そ全世界にこれほど高いものはないと云う話である。
 此の高塔がカリフォルニヤ大学に建てられたについては、こんな話がある。
 大学の後援者の一人にセイン・ケー・セーサーという婦人があった。彼女の考では人間教育の骨子は、健全に文学を鑑賞させることと正当に歴史を会得させることにあるというのである。そこで彼女は此の加州大学の当局者に対して、二人の教授の俸給を永久に支払い得るだけのプロフェッサーシップファンドの寄付を申し込んだ。そして一人の教授は必ず古典文学を担当し、他の一人は史学を教授することにしてほしいと云った。大学ではその申込を受入れることとした。
 彼女は満足した。けれども彼女の寄付は一万幾千の
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