にでも堪え得る忍耐力があります。すべての日本人は勇敢で、そして親切です。日本人は立派な品性と力量とをもっています……私達はミラーに死なれてからアメリカ人に随分いじめられました。ミラーの遺稿から上った原稿料など、みんなまき上げられました……』
 夫人の言葉は少々乱脈になって来た。のべつ幕なしに話している処へ五十近い、しかも、まだミスらしい婦人が出て来た。ミラー翁の娘さんらしい。
 挨拶をすると、直ぐ手の筋を見てやろうといった。で、セエキスピアが気味悪そうに右の手を出すと、彼女はいった。
『私はあなたの未来の事はちっとも申しません。あなたの過去のすべてが、私の判断でわかりますから、それを語って批判します。あなたはその批判から御自分の将来を御判断なさい。あなたは由緒ある家に生まれ、生活の苦闘を続け、今は成功している。感情的で他人の世話をする。その世話はことごとく裏切られる。それでも信念は一々それを気持よく整理した。文学を好む。それが半ば熟達の道を歩んでいる。あなたは要するに善人で……』
『異存なし!』といいたい所である。そこを出て山の方へ行ってみたかったが、近頃の山火事に追われたカヨテ(狼)
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