の旧邸なのである。
 長い曲りくねった路をドライヴしているうちに思うことは、こんな偏僻《へんぴ》な所に、自動車も何にもない頃どうして住んでいたろうという事である。ヨネ・ノグチ氏が、がた馬車に乗って町へ買物に出た光景が想像される。
 東海散史の佳人の奇遇に出ているというミルキン湖も、ここも同じ公園ではあるが、ミルキン湖の美しさにくらべて何とまあ田舎びた公園だろう。
 その公園の中に見すぼらしい家がしょんぼり建っている。ペンキは剥げ、羽目板は曲み、窓ガラスは破れている、近よってみると間口五間奥行三間という木造平屋だ。家の周囲にはサイプラスとユーカリプタスが、ぎっしり生えている。これがアペイという邸宅で、ウオーキン・ミラーが晩年詩作に耽った所なのだ。
『なる程……』とこの家から詩翁の心も想像される。
『シエラの詩人と呼ばれしウオーキン・ミラーの住みし所、彼の名づけて高嶺《こうれい》といいける所。妻の名にちなみてアペイと呼びしこの家は、彼が「コロムバス」その他の詩を物せし所。周囲の樹木は彼の植えにしものにて、北方の高地には荼毘《だび》塔あり。また、モーセ、ジョン・シー・フレメント将軍、ロバアト
前へ 次へ
全14ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
沖野 岩三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング