した。
 四十かいでは「乳を一《いつ》しよう。」と、いひました。
 二十かいでは「ちりとり、ひとつ。」と、いひました。
 十かいでは、どうまちがへたのか「つつそで一まい。」と、いひました。
 しばらくして、かんとくさんが、おなかを、ぺこぺこにして、おすしを、まつてゐるところへ、もつてきたものは、つつそでの、きもの、一まいでした。
 かんとくさんは、すつかり、はらをたてて、
「ばか。すしの、べんたうだ。」と、どなりました。けれども、それがまた、だんだん、下へ下へと、まちがつていつて、
 八十かいの男は「百面さう。」
 六十かいの男は「ふくじゆさう。」
 四十かいの男は「ふろしき。」
 二十かいの男は「くるしい。」
 十かいの男は、あわてて「しんだ。」
 一かいの男は「さうしきぢやあ。」
 さあ、町ぢゆうが、大さわぎになつて、かんとくさんが、しんで、おさうしきだといふので、市長さまが、百五十かいまで、かけ上つて行つたのは、三日目の朝でしたが、そのとき、かんとくさんは、ほんたうに、おなかがすいて、しんでゐました。
 こんなさわぎで、たうとう、町の人たちは、おてんたうさまを、おひ出すための、た
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