ばべるの塔
沖野岩三郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)私《わたし》どもは、
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 まだ、電話も電信も、なんにもない、五六千年も、まへのおはなしです。
 ひろいひろい、のはらを、みつけた男がありました。あまり、けしきがよいので、そのまんなかに、一けんの家を、たてました。すると、いつのまにか、われもわれもと、そこへ、何十万の人が、あつまつて来て、五六年めには、たいへん大きな、町になつて、しまひました。
 ところが、ここへ、あつまつてきた、人たちは、男も女も、みんな、正直ものばかりで、まいにち、よくはたらいて、
「おい、正直にしろよ。かげで、なまけちや、いけねえぞ。おてんたうさまが、見てゐらつしやるから。」と、いつてゐました。だから、この町の人たちは、だれ一人、うそをつくものもなく、それはそれは、かんしんに、仲よく、はたらいてゐました。
 ある年の春、この町へ、二人の、りつぱな、みなりをした、男がきました。そして、この二人は、町の役所に行つて、こんなことを、まうしました。
「私《わたし》どもは、世界で一ばんえらい、かしこい男です。私どもは、れんぐわと、せめんとを、つくることを、しつてゐます。この町の人は、おてんたうさまを、おそろしがつて、正直に、よくはたらくさうですが、私どもの、はつめいした、れんぐわと、せめんとで、天へとどく、高い高い、塔をたてて、そこから、天へのぼつて、天にゐる、おてんたうさまを、おひ出してしまつては、いかがでございますか。さうすると、すこしは、うそもいへるし、なまけてもいいし、わるいことをしても、おてんたうさまに、しかられる、しんぱいは、ないのですから。」
 これをきいた市長さんは、すぐ町の人たちに、このことを、さうだんしますと、みんなが、たいへん、よろこんで、
「それはよい人がきてくれた。では、さつそく、そのたかい塔を、たてることに、してもらはう。そして、おてんたうさまを、天から、おひ出して、気らくに、くらさうではないか。」と、いひました。
 市長さまはじめ、みんなが、なまけてみたいものですから、町の人たちは、みんな、あつまつてきて、その高い塔を、たてはじめました。
 れんぐわを、つくるもの、せめんとを、つくるもの、それをつみかさねて、塔をたてるもの、まい日まい日、大へんな、さわぎでした。
 そんなにして、町の
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