路である。こゝで落ちたらもう助かる見込はないのである。稻妻形の屈折した曲り目になると、四つに偃つて手探りに道を求める。恐ろしいといふよりも厭ふ心持がしてたまらぬのであつた。幸に失策もなくて麓の人足が休んで居たあたりへ辿りついた時には予の嬉しさは譬へやうがなかつた。それからは足のつゞく限りに急いだ。宿へついたのは九時過ぎであつた。予は腰を卸した儘峠の話をするとみんなが予の傍に來て無事を喜ぶと共に非常に驚いたのであつた。まあちやんが予の草鞋をといて呉れた。草鞋掛までが底の拔けて居たには自分ながら驚かざるを得なかつた。
翌日眼を醒すと宿の者は山へ出て仕舞つてまあちやんが一人茶釜の下を焚いて居た。湯槽の中で氣がついて見ると右の腰骨の所に少しく痛みを覺えて小さな傷が出來て居る。なだれへ落ちた時の形見である。今朝から踏むたびに足のうらが痛むと思つて居たら栗の刺が夥しく立つて居る。夜道に栗のいがに乘つたやうにも思つたのであつたが、こんなことゝまでは思つて居らなかつた。予はまあちやんに針を借りて自ら左の足の刺を掘りとつた。まあちやんは右の足の刺をとつて呉れた。
其後心切なまあちやんはどうなつたであ
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