る。それが落ち切らぬ内に又あとの波が越える。釣する人は波の越える度に片足を揚げると波は其足の下を越える。巌越す波に攫はれぬ様にかうするのだらうと思ひつゝ絶えず然かもゆつたりと波を避けつゝある其様子を見乍ら暫く立つて居た。波はゆら/\とゆるく私の眼の前に膨れて更にそれが低くなつて汀にばしやりと白い泡を砕く。膨れあがつた波の面には更に幾つもの小さな波が動いて一度必ずきら/\と暑い日光を反射する。弓なりの網を持つた人はもう遥かに「ウタレ」を走りつゝ小さくなつて居る。其先には平潟の入江の口から遥かに遠く横はつて見える小名浜あたり一帯の土地が手を出したやうに突出して居る。私は磯を伝うて尚ほ進んだ。だん/\行くと「ウタレ」に近く大きな棚があつた。それが此の空闊な浜にたつた一つぽつりと立つて居る。以前塩をとつたことがあつたと見えて棚には麁朶が載せてある。此の浜を往来する人が盗むこともないと見えて麁朶はそつくりとしてあるやうに見える。雀が棚に聚つて騒がしく囀つて居る。雀がどうしてこんな所に鳴いて居るのであらうか、雀は蛇が乾いた砂を渡らぬことを知つてさうして此の棚に其子を育てやうと云ふのであらうか。雀は
前へ
次へ
全66ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング