も余所々々しいところが出て来た。さうすればまた私の心にはおいよさんに不快な所が見えて来る。我儘に育つたと思ふやうな所も明かに分かるやうになつたのである。母は後の憂のないやうと窃に貯へて置いた手切の金を私に渡した。私の母は何処までも知らぬ分で其金も私の苦心から出たことにした。別れ噺も私から持ち出した。一ケ月たつうちにおいよさんも其積りになつた。私の家へ来てからおいよさんには衣物が殖えた。いよ/\帰ることになると衣物を包む風呂敷もない。私は他出した時萌黄の木綿を一反買つて来てやつた。おいよさんは一心にそれを縫つた。大きな包がおいよさんの部屋に置かれた。噺がすつかり極つて畢ふと何となく又心が惹かされた。無理に逐ひやるのが気の毒のやうにもあつたのである。私はおいよさんの部屋に忍ぶことを抑制し得なかつた。加之私は手切のことでまだ噺があるからと母を欺いて遠慮もなくおいよさんの部屋へ行つた。其頃おいよさんは加減が悪いからといつては部屋に籠つて居た。私の母は有繋に気が揉めるのだらうといつた。最終の日が来た。雨の降る日であつた。おいよさんはしをらしく母へ挨拶した。母も叮嚀に時儀をした。私は側にそれを見て
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