行つてどうとか思案を借りて見る積だといつた。私は悪いことだとは思つたが、どうにかそれが人知れずに葬つて畢へるならばと有繋に思はぬ訳には行かなかつ[#底本では「っ」]た。世間へどうしても知らしたくないといふ念慮が先に立つて私はそれを抑制する言葉が私の喉から出なかつたのである。おいよさんが行つてから心は少しも安まらなかつたが、此の前おいよさんが其家へ行つた時程は淋しい心を抱かせなかつた。
おいよさんが行つて幾日かたつてから私が茶の間の火鉢の側で新聞紙を見て居ると母は静に私へいつた。あたりには人は居なかつた。母はかういつた。それは能く聞いて見ねば分らぬことではあるが、おいよさんの針仕事をした女の窃に耳打する所によると二人の間は疑はれて居る。外にどうといふことはないが近頃おいよさんが其の女に逢ふと懐胎した時はどうしたらいゝだらうといふやうなことをよく聞くのである。一度や二度のことではないのでそれがどうも変である。尤も懐胎したとすれば顔のつやが善過ぎるからしかとはいはれぬが、大事をとるならばおいよさんは再び戻さぬ方がよいかも知れぬといつたといふのであつた。母はそれで其女に二人の間は人目につくや
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