に容れたのであつた。おいよさんは近いといつても河を渡つて行かなければならぬ或町へ反物を買ひに行つ[#底本では「っ」]た。私はおいよさんが行くことに就いて苦心した。さうして口実を授けた。私にもずるい考が起るのであつた。おいよさんの妹で看護婦に成つて居るのがあつてそれが遠くへ行つて居る。其妹から数日前に封状が届いて居る。それで其中に封じてあつた為替を取りに行くのだと私の母へはいつて行けとかう教へたのであつた。おいよさんの反物は柄は絣であつたが翳せば先が見え透くやうな安物であつた。おいよさんは仕立を近所の少しは針仕事の出来る女へ頼んだ。これが二人の間を疑はしめる材料を提供したのであつた。おいよさんには冬衣のさつぱりしたものは一枚もなかつた。有繋によごれた着物で郷里へ行くことを羞ぢたのであつた。おいよさんは正月の上旬に霜の解けないうちといつて未明に人力車で出て行つた。おいよさんが行つてからも私はひどく不安の念に駆られて居た。おいよさんは出て行く前に私の腹は私がどうにかします、私も知つて居ますからといふのであつた。どうする積かと私は聞いて見たら、知合の女に窃に処分をしたものがある。其女の家へ客に
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