だ。おいよさんの一身は私の家でどんなにしても処理してくれるやうにといふのであつた。其後もおいよさんは別段変つたこともなく私の家に在つた。季節はだん/\寒くなつた。葉鶏頭も其他の秋草も霜でぐつたりとして畢つた。落葉が喬木の梢から飛んでどこの庭にも散らばつた。干藁や籾の筵にも夕日の射す頃には小さな欅の葉が軽く転がつて居る。落葉が大抵掃き竭されて秋草は刈り去られて冬らしくなつた庭が蒼い空のもとにからりとして来た。世間は改まつた。おいよさんは自分の家から持つて来た古い綿入羽織を引つ挂けて居た。私の母から与へられた唐桟の袷の上へ其古ぼけた羽織を着るのは不恰好で又憐れげであつた。私の母はまた羽織の材料を見つけてやつた。それが仕立て上げられた時おいよさんの容子がきりゝとなつた。櫟林には到る処藁が吊された。此は落葉を猥りに採るなといふ印である。萵雀《あをじ》が其乾いた落葉を軽く踏んで冬は村へ行き渡つた。おいよさんと私との間には人知れず苦悩が起つた。おいよさんの身体の工合が変に成つたといふのである。半信半疑のうちに一ケ月待つて見た。どうしても懐胎したらしいとおいよさんも心配な顔をして私に語つた。私も自分
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