見ると百姓は商人の荷から生薑の束を引き出してまけろというて居る。不作だから不廉いことはないと商人はいつて居る。時節が後れたから筋が堅くてもう不味いといふやうなことを声高にいつて百姓は生薑を買つた。
「生薑位はおめえ只ぶん投げて行くことにしてもいゝんだ」
百姓がいふと
「商人がおめえそれで立ちきれるかい」
と天秤を杖につきながら商人がいつた。
「おめえそれでも今の嚊持つ時にやどうしたつけ」
「又そんなこと、つまんねえことをいふなよ」
「それだつておめえが通つて来る時にや俺はなんぼおめえがことはかばつてやつたか知れめえ。又おめえも能く追出され/\してな」
百姓は暫く笑つたが間を措いて
「あんな時からぢやおめえも年とつたな」
「年もとらな」
二人は戯談半分にこんなことをいつて笑つて居る。かういふ野卑な対話でも私は平生ならば幾分の興味を持つたであらうが其日はいつまでも聞いて居ることが出来なかつた。其日は兎に角私に不快の感を与へることの多い日であつた。おいよさんは洗濯物を葉鶏頭に添うて干した。私は白い衣物を葉鶏頭の側に干すのが好きであつた。おいよさんは私の下駄を洗つて軒下へ干してそれから
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