てぼく/\と幹をつゝいて居る。其姿は赤い半股引を穿いて尻をねぢあげて大形な飛白の羽織を引つ挂けたやうである。さう思つて見るとぐつと後へ首を引いては嘴が痛からうと思ふ程ぼく/\と強く叩く其動作がひどく滑稽で私は思はず興味を持つた。私はぼうつとして何かに興味を持つて来ると先から先へと迷想に耽つて畢ふことが度々であつた。私は足が痺れたので漸く便所を出た。自分の部屋の障子を開けると空はからりとしてすべてが皆きら/\した日光を浴びて居る。傭人は四人で向合になつ[#底本では「っ」]て陸稲を扱いて居る。各左手に積んだ陸稲の束をほぐしてはぶり/\と扱いて居る。女が一人其扱いだ藁を小さな束に拵へて居る。小さな蜻蛉が薄い羽を日にきらめかしながらすい/\と飛びめぐつて居る。庭におりて見ると杉の梢にも蜻蛉の羽がきら/\と光つて見えた。私は水浴をするために楊枝を使ひながら井戸端へ行つた。其所には井戸端を覆うて葉鶏頭が簇生して居る。赤い葉が目に眩きばかり燃え立つて居る。白い手拭を冠つたおいよさんが葉鶏頭の蔭に洗濯をして居る。盥の中には私の衣物がつけてあつた。朝から暖かなのでおいよさんは例の浴衣を着て居た。私が井戸
前へ 次へ
全66ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング