度口が小さく蹙まつて鼻の処に微かな皺が寄るのであつた。私は身内がだるくなつて居るので其時はおいよさんを見て厭な心持――厭といふ程でもないが――がした。庭先から聞える懶い稲扱の音を聞きながら又うと/\して漸く起きたのは十時近くであつた。毎朝の習慣で私は便所へ立つた。窓の障子を開けて見ると西に聳えた杉森の梢が二尺ばかり間を隔てゝ廂にくつゝかうとして居る。其間から空が見える。夜の降りが強かつたので秋の空は研ぎ出したやうに冴えて見える。杉の木の間から見える空も青く光つて居る。横からも竪からも秋の空が窓を覗いて居るやうである。廂の上に立つた桐の木へ啄木鳥が一羽飛んで来た。丈夫相な爪先で幹にしつかとつかまりながらぼく/\と嘴で叩いては時々きゝと鳴く。さうして幹をめぐりながら上部へのぼつて行く。私は凝然として見て居た。私は以前病気で居る間からぼうつとして畢つて居る時は或物に目をつけると喪心したやうに何時までも見て居るのが癖であつた。其ぼうつとして見て居ることから他へ移る運動が懶くてたまらぬのであつた。其朝もさういふ心持で啄木鳥に見入つたのであつた。威勢のいゝ啄木鳥は赤い腹を出したり黒い脊を見せたりし
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