んはぎよつと目を開いた。さうして驚いた機会にすつと一時に息を吸ひ込んで、まあと一声出して打消すやうに手を挙げた。おいよさんは手を引きながらランプのホヤを倒した。おいよさんは慌てゝ身を起しかけた。其時はもう私が火を吹つ消したのでおいよさんの姿は只目前に見えなくなつてしまつた。それと同時に生暖い風がふわりと私の肌に感じた。
四
翌朝目が醒めて見ると秋の日が障子の腰にかつと光を投げ掛けて居た。私は暫くもぢ/\して天井の木理を見つめて居た。以前からどうかすると酷く体がゝつかりして居て唯ぼうつとして時間を過すのが屡であつた。此は私が病気の為であつた。小勢であるだけ私の家はひつそりして居るのであるが今朝はそれが殊更静に感ぜられた。障子の外では庭で傭人が陸稲を扱きはじめたと見えてぼり/\と懶相な音が聞える。又目を瞑つて居ると襖がそつと開いたやうである。ふと見るとおいよさんが私の部屋の外へ塵払と箒とを挂けに来たのである。おいよさんが箒を取りに来た時は私はまだ熟睡して居たらしかつた。襖をそつと締める時おいよさんは冠つて居る白い手拭の下から私を見て嫣然とした。おいよさんが嫣然とする時には屹
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