つ[#底本では「っ」]た儘である。暫く立つて見たが障子の内は只静かである。おいよさんはどうして居るのであらうか、或はうつかり眠つて畢つたのではなからうか、眠つたとすると枕元へ引きつけたランプは危険である。それで私は障子に近づいて外からがた/\と軽く障子を動かして見た。起きて居るならば何とか驚いて声を立てる筈であるのに一向返辞もない。私は有繋に心が咎めながら到頭障子を開けて見た。おいよさんは熟睡して居る。こちらを向いてさうして蒲団の外へ延した右の手から雑誌が披いた儘こけて居た。大縞の浴衣を着たしどけない姿で肩が挂蒲団から脱け出して居た。枕元の二分心のランプは心が一杯に出て油煙が微かにホヤの上に立つて居る。さうして室内はほのかに臭くなつて居た。おいよさんは深夜に障子を開けて私がはひつて来たとは知らない。さうして軽く体に波を打たせながら息づく外に微動もしない。ランプの光はおいよさんの無心な白い顔を見守つて居る。私は立つたまゝ堅くなつたやうになつて見おろした。おいよさんの口もとの筋がどうしたのか少しぴく/\と動いた。私はつとしやがんでランプの心を引つ込めた。裾がおいよさんの手に触れた。おいよさ
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