暫く物案じをして居たがすぐに其所を始末して母へ暇を告げて出て行つた。おいよさんは其日は帰らなかつた。次の日も帰らない。おいよさんの針仕事は依然としておいよさんが束ねた儘そつくりと柱の側に置かれてある。私の心は何んだか形容し難い寂しさを感じた。此の時限り私はおいよさんに別れたのではない。それにも拘らず私はおいよさんに対して前後に此の時程果敢ない思をしたことがない。どうしても心が騒いでならないのであつた。おいよさんは三日目の夕方私が跣足で秋草へ水をやつて居る所へ風呂敷包を抱へてもどつて来た。
「まだ極りがつかないもんですから人が来たんだつていひました。私はいつだつておなじなんですから駄目ですよ」
 かういつて
「それでもね私が置いて来た衣物は二枚ばかりとゞきました。私がこゝへ来て居ることは来た人も知らないんですからね。どこへ行つて居るんだつて頻りに聞いた相ですよ」
 おいよさんは淋しく笑つた。どうもはき/\として居ない。おいよさんは又何かいはうとしたが傭人が畑から帰つて来たので私のもとを去つた。私はおいよさんを見てひどく不安に感じた。それでも其夜ランプの下で自分の袷地を裁つて威勢よく箆をつ
前へ 次へ
全66ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング