洗ひ曝しと中形の浴衣と二枚より外持つては居なかつた。浴衣を着て襷挂になるとおいよさんは一寸人目を惹くのであつた。紺絣は柄が不似合なので別人のやうになるのであつた。秋も涼しくなつたのでおいよさんは其紺絣ばかり着るやうに成つた。私はそれを心に不満足に見て居た。だがこれまでも私には妙な一つの癖があつた。一人の女を始終見て居るとすると悪く見えて居る所がなくなつてくれゝばいゝがと思ひながら見ては又見るのである。悪い処が幾らづゝでも私の目に悪く映る度合の減ずるやうに心挂けるのであつた。私は見馴れることに勉めたといへばいへるのである。おいよさんの紺絣の姿もだん/\見づらくないやうになつた。おいよさんは私の冬着の支度に骨折つて居た。或日私が秋草の植込に水を注いで居た。私の村のやうな辺鄙な土地で秋草を作らうといふものは私の外には一人もないのである。私はそれを自慢の一つにして居たのである。
「あなた一寸お出でなすつて下さい」
おいよさんは呼びに来た。座敷へ行つて見ると
「これを通して見て」
縫ひ上げた綿入を二つ襲ねておいよさんは私の後へ廻つた。
「どうするんだい」
どうするか私に分らないことはないの
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