汗を垂らしながら跟いて來る。村へはひつた時に女は郷六《がうろく》といふ所だと獨言のやうにいつた。仙臺の市へ行くのであらうと思ふ荷馬車が繭を山のやうに積んで二臺三臺と埃を立てゝ行き過ぎる。薪を負うた女が三人五人と揃つて來る。皆襤褸で厚い板のやうに拵へたチャン/\を着て居る。薪といふのがみし/\と肩へこたへ相な大きな束であるからそれでこんな襤褸の厚板を工夫して着て居るのだらうと思つた。道連の女に此は何といふものかと聞いたら此はケラといふものだといつた。それでまだ此から先の山になると隨分をかしなことをいふと女がいふからどうおかしいかと聞くと笊はフゴといふチヤといふやうにいつた。訛りの所がはつきり分らないが斯う聞えた。笊のことをフゴと呼ぶのだといふことである。途切れ/\に人家のある愛子《あいし》[#「愛子」に「ママ」の注記]といふ村へかゝる。此村は端から端までゞは二里もあるといひながら女は負けずに跟いて來る。もうゝつちやつたかと思ふと二十間か三十間あとから依然として汗を垂らしながら跟いて來る。人家の漸く途切れた所で余はつと草を苅つた趾のある草原へそれた。女はさつさと先へ行き過ぎた。余は其草原で
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