て籬が島のあなたへはひる。熟練な舟子共は軟風を其三角の白帆に受けて小舟は己が欲する方向に走らしむるのである。乘客は皆愉快げに甲板に立つた。只少女は余が眼の前に帶の小さな結び目をあらはした儘汽船のつくまでうつぶしになつて居た。

      三

 九月四日
 仙臺から西すれば山形街道である。余は此の街道を行くのである。時々足もとに深い溪があらはれてそこに廣瀬川の水が白く見える。水は仙臺へ落ちて青葉城のもとを洗つて行くのである。溪から溪へ自然の道筋をたどつて水は大なる迂廻をせねばならぬので力の限り急いで行く。淙々として遙に且つ明かに聞ゆるものは其水が急ぐ足の響ともいひうるであらう。街道は平らかである。疎らな芒に交つて松虫草の花がびつしりと連つて居る。或村へはひる少し前で一人の女と道連に成つた。此の女は余が後から追ひ拔かうとした時に足をはやめて余の後へ跟いて來たのである。自分は佛參りに行くのだがお蔭で道が捗どるといつて息をはづませながら跟いて來る。年増のまづいさうして日に燒けた顏の女である。髮をてか/\光らして白い足袋を穿いて居る。余は好ましい道連でないと思つたからうつちやらうとすると女は
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