つちにもこつちにも此の魚族の群が目につく。甲板には乘客が一杯であるだけ魚族の群に對する騷ぎが大きい。少女は其度毎に我を忘れて見入る。汽船は日覆の布の上から煙を遙か後の波の上に吐き落しながらずん/\と進行する。松島の外側へさしかゝつた。奇巖亂礁の島々に接近して行く。其時波は稍動いて船体が幾らか搖れて來た。沖遠く吹きおくる凉しい風に日覆の布がばさ/\とふれる。今まできよろ/\と目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]つて騷いで居た少女は急にうつ伏しに成つてしまつた。見ると此の少女の帶の結び目も漸く拳大さに過ぎないのであつた。代《よ》が崎《さき》を過ぎて塩竈の杉の稍が遙かに見えて籬が島が舳にあらはれた時には船体の動搖は止んだ。さうして平らな蒼い水を蹴つて行く汽船の舷に近く白い泡が碎けて消える。年増の女はうつ伏しに成つて居る少女を見てお前はまあどうしたのだといつた。さうして私は船が大好きだ。あのずつと白い泡の立つ所はラムネのやうで胸がすきるといつた。余は此の奇拔の言に意外な思をした。籬が島のあなたからは塩竈を出た小舟が白帆を揚げて走つて行く。白帆を揚げた小舟は又それと行き違ひに塩竈をさし
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