辨當を開いた。さうしてそこへ暫く横にならうとしたがうつかり木蔭のないところであつたからすぐ又歩き出した。余は毎日辨當が濟めば屹度そこに横臥する。それは身體がのび/\としていふべからざる愉快を感ずるからである。徒歩の旅行を苦んで續けて居るものでなければ此の味は解らぬであらう。又人家のある處を過ぎるとそこには鬱蒼たる松林がつゞいて居るので余はたまらず身を投げ倒すやうにして松の根がたへ横臥した。さうして居ると後から大きな聲で賑かに笑ひながら來るものがある。其中にさつきの女が居る。穢い百姓の老夫と此も百姓の穢い衣物で古い藁草履を穿いた年頃の女の子と三人である。女は余が歩き掛けた時に追ひついて復た一所になつた。女はさつき何處へ引つ掛つたと余に聞いた。それからそつちへ引つ掛りこつちへ引つ掛り丁度おれとおなじだ。おれは酒を飮んで來たところだと女は頗る元氣である。女の顏は赤くなつて居る。百姓の老夫は足もとがふら/\としながら少し涎の垂れ相なだらしのない口を開いて時々只はゝアと哄笑するのである。女の子は小麥藁の苞を荒繩で背負つて居る。藁のすいた所からよく見るとそれは鮪のしつぽであつた。其小麥藁の苞の一尺
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