下には珍らしい小さな帶の結び目が拵へてある。それが女の繻子の帶と對照して一層みじめなものに見える。やがて三人は松林の中のある岐道から入つて行つた。其時おらあ此所でおめえと分れだと女がいつた。さうして百姓の老夫は故もなく余を見てはゝアと哄笑した。余はそれからは獨でポツ/\と街道を運ぶ。作並《さくなみ》といふ村へかゝる。左右の山が迫つて廣瀬川はもう見違へる程狹く且つ淺い流になつて近く姿をあらはして居る。作並の長い村も既に盡きるころになると行手を遮つて峻嶺が聳えて見える。此は出羽と天然の境界を形つて居る關山峠である。此の峻嶺を擁して作並の温泉宿があるのである。余は店先から聲をかけた宿引に止められて此の温泉で一日の疲勞を醫することにした。小女が濯ぎを汲んで來る。小女は筒袖である。余は穢い一室へ案内された。やがて別の女が來て浴槽へ案内するからといふので其女の後へ跟いて行く。此女も筒袖である。女は梯子段のやうに拵へた階段をおりる。幾らかうねり/\下へ/\と行く。板葦屋根が覆うて居てそれがもう古くなつて朽ち掛けたりした所もあるので地底の坑内へでもはひるやうな心持である。女は髮へ白いリボンを插して居る
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