。こんな僻地でも街道に當つて居るだけにかういふ裝飾品も行はれて居るのであらう。それにしてもどれ程此のリボンが女の心を惹いたことであらうかと思ふと其不調和な處に懷しいやうなところもある。それから女は極めて狹い帶を締めて臀には漸く拳位ともいひたいやうな小さな結び目を拵へて居る。余は此滑稽な程小さな結び目と白いリボンとを見ながら段をおりて行く。だん/\行くと遙かな底の方に人の聲が聞える。楷段が竭きるとそこに浴槽がある。近所の山のものらしい人物が五六人浴槽の側にぐつたりと茹つたやうになつて只手拭をしめしては少しづゝ身体へ掛けて居る。浴槽の外は直に溪流で狹い水が僅かに巖にせかれて落ちて行く。廣瀬川がこんなに成つたのかと思ふと驚く程の變化である。斷崖からは緑樹が掩ひかぶさつて藤の大きな蔓が緑樹の枝から垂れて居る。下流は兩岸相迫つて薄闇い。子供等が四五人でがや/\と騷ぎながら此溪流の淀みに泳いて居る。余は此の楷段はどの位あるかと女に聞いて見たら何でも百四五十はあるだらうといつた。女は浴槽に一々手をさし入れて加減を見てあるく。余はすぐに衣物をとつて浴槽へ一寸飛び込んだ。さうして子供と一つになつて泳いで
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