つゝ行く。こゝらの島には蝮蛇が非常に居ると洋服の男がいつた。蝮蛇の居るといつた其小さな島の近くに小舟が二三艘泛べてあつて浮標のやうなものが丸く水に輪を描いて居る。洋服の男はあれは鮪《しび》の寄りへ大網を掛けた所だと説明する。少女は又其方へ目を配る。其網に近く海中へ丸太で櫓のやうなものが建てゝある。さうして其櫓の上部には薦のやうなものがめぐらしてある。そこには漁夫が乘つて居て鮪のはひつたかはひらぬかの檢査をして居るので漁夫の參謀本部だと彼は又いつた。海は淺いと見える。其淺い海に櫓を建てゝ鮪の群を待つといふ悠長な漁獲の方法に余は驚くと共に此の近海にはどれ程魚族が繁殖するのだろうかと思つた。余等の近くに鐵の赤く塗つた勾欄へ倚りかゝりながら遠くを見て居る印袢纒の一群がある。余はすぐ近くに居た彼等の一人に聞いて見ると彼等は大工職で金華山に無線電信所が建つといふので其普請に傭はれて卅日も前に廿人程で島へ渡つたのだといつた。給料はよし處は變つて居るし初めのうちはいゝと思つて居たが其内に不自由だらけで明けても暮れても海ばかり見て居るのだからもうよく/\厭になつてしまつた。それで愈昨日の午後に暇が出たと
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