て心持よく晴れた。汽船は定刻に先つて港へついて靜かに煙を吐いて居る。昨日から待つて居た乘客はごや/\と渚に集つた。空は一杯に晴れて日がきら/\と射して居る。沖かけて波は平靜である。甲板の上は乘客が一杯になつた。日光を遮るために布が覆うてある。乘客は爭うて席をとる。六七枚の蓆は人數の半ばをも滿足に落付かせることが出來ない。丁度甲板の中央に大きな箱のやうなものが置いてあつて其上に端艇が一つ載せてある。其端艇にはズックが積んである。其隙間へ穢い洋服の男がはひり込んだ。卅五六位な年増の女と十五六の女の子とは其男と一所であると見えてやがて二人の手を執つて引き揚げる。少女は極めて田舍じみた容子できよろ/\と頻りにあたりへ目を配つて居る。男は其髭のある顏へ手拭でぎつと頬冠をした。さうして年増と顏を見合せて笑つた。そこにはまだ一人位の席が明いてるので余もつゞいて端艇へ乘つてそこのズックを廣げて其上へ坐つた。そこは四人でぎつしりに成つた。汽船は徐ろに進行する。鮎川の港に近く相對して横はつた大きな島が網地《あぢ》島でぽつ/\と漁人の家が見える。それから稍小さなのが田代の島でそれから又小さな島を左舷の方に見
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