子の盆に竝べてあるのが見えた。余の座敷の近くにある宿の佛壇を見るとそこにも皿へ團子が堆く供へてある。佛壇にも青笹だの鬼灯だのが飾つてあつて燈明がともつて居る。余は一つは好奇心から宿へ其團子を請求した。昨日の娘が一皿持つて來てくれた。黄粉がふり掛けてあつて其の上から砂糖がばらつと掛けてある。すぐに箸をとつて見る。只臼で搗いた粉はあらかつたと見えて齒切が餘りよくはなかつたがそれでも余は一つも殘さなかつた。皿の底の黄粉まで丁寧にくつゝけてたべてしまつた。皿を持つて來た所をつく/″\見ると娘は眼のまはりが幾らか隈になつて容易ならず貧血して居るのである。何處までも大儀相な果敢ない姿である。しとやかなのも病身故であらうと思ふと又改めて切ない哀れな心持になる。余は身体が惡いのかと聞いたら娘はいゝえと只一言曖昧にいつた。余は更に此の土地にも盆には踊があるかと聞いたらありませんといつた。心持のせいかそれが酷く淋しく聞えた。皿を置いて立つて行く娘の後姿を見たらふと帶の結び目の非常に小いのに氣がついた。拳の大さ程であつた。
二
其日は後に雨が止んだ。降るだけ降つた雨は地上の草木に濕ひを殘し
前へ
次へ
全18ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング