しめて居る。卵はつぶれぬやうに紙へ包んでそれを手拭の端へ括つて兵兒帶へくつゝけた。
 夜は全く明け放れた。時計を見るとまだ五時半にならぬ。空は晴れて淡紅色を含んだ灰色である。行手の峻嶺が頂上僅かに日光をうけてほつかりと赤くなつて居る。路傍の芒の穗はさま/″\な草の花と共にしつとりと露を宿して居る。溪流について行く。即ち此も廣瀬川の水である。溪流はずん/\狹くなつて街道が高くなるのに氣がつく。峻嶺の緑が身に迫つて來る。余は此の朝の空氣に包まれて秋の冷かさが薄い單衣を透してしみ/″\と身にしみこむやうに感じた。歩いて居るあたりまではまだ日は射さぬ。峻嶺の頂は段々下の方まで日光が射し掛けて來る。それと共にさつきの赤い光は薄らいだ。山腹をうねつて行くと所々山のはざまを漏れて日光が路傍の草村へきら/\と射してることがある。ふりかへつて見ると其草村に交つて青い細い莖の先へ白い玉を乘せたやうな星月夜の花から薄く霧が立ち騰る。霧は四五尺のぼつて日光のきらつく中へ消えてしまふ。既に深くなつた溪流の向うの岸の汀から朴の木が存分に葉を廣げて立つて居るのがある。余は小石をとつて朴の木へ投げて見た。幾つかとつて
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