も居ねえと爺さんは又いつた、苫舟の上手へ繋いたサツパが上手へ、下手へ繋いたサツパが下手の方へ出た、「なあに居なくつても時間だから砂をはたかなくツちやならねえからといつて竹棒のところをどうしたのか底になつてるといふ網であらう水面へ浮んで來た、サツパのなかのものはその網の片はしを持つて、洗濯でもした時のやうに上下にばしやり/\とやつた後また元のやうに網を沈めて戻つた、果して獲物は無かつた、折角待ち疲れのやうになつて居たのに惜しいことをした、こんな鹽梅では今夜は六かしいのではないかと自分は竊に思つた、起き直つた從弟も呆然として居る、なほ暫くは見守つたが見込もないやうではあり、眠くもなつて來たので自分も横になつた、叔父も横になつた、一枚のどてらは三人を掩うた、寒からうと思つたのが意外に寒くないので大助かりである、しかし狹い間へごろ寢であるのと、自分の屈め切つた足の尖はうらのちやんに屆いて居るのとでひどく心持がよくない、その上に今か/\といふ心持ちのするために眠りながらもうつら/\して居る、大分時間も經過したらうと思はれる頃に有るか無いかのやうに鈴の鳴るのが聞えた、叔父の手は強く自分の躰に觸れた
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