鐵がくつゝいてるから、畜生めそれを潜りせえすりやから/\つと鳴るからね、そん時これを引ツ張るわけなのさと先づわかり易いやうにと話して呉れた、しかし自分はもはや一疋位引ツ掛り相なものだと思つて心待ちで堪らない、酒もいつかそつちのけにされてみんな網の方へのみ目を注いてきた、靜かな夜は益※[#二の字点、1−2−22]靜かに成つて遙か向ふの岸と思はれるあたりがどんよりと黒く見えるのがなんとなく淋しく、そろ/\更けはじまつた、叔父と自分との間に夾まつて居る從弟はもう横になつて仕舞つた、舟や竹棒に塞かれて居るので水は極めて低い響をなして流れ去る、よく/\ひつそりして仕舞つた時にから/\んと突然に鈴が鳴つた、それツといふので二人の手が小べりの綱へかゝつた、爺さん頻りに息をはづませながら「どうも今なあんまり音がえらかつたから下手にすつと返りかも知れねえ、利口な畜生はそろツと行つてさきの網へ突き當ツちや急に引き返へすのがあんですからね、そん時はそれ音が大けえんです、今のがなども返りでねえけりや可いがと自分等の方を見ていつた、綱はしつかりと握つた儘である、網のなかは寂然として音沙汰もない、「そうれどうして
前へ 次へ
全13ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング