ふと一人が突つ刺してある竹棒を引つこぬきながら「いめえましい畜生ぢやねえか、粉微塵だと呟きながら、舟へ乘せてきた竹束をほどいてそこへ突つ立てる、またその次のを改めては突つ立てる、その竹棒のほどいたところを見ると、幾條かの繩が一つの竹の棒を括つては他の竹の棒を括つて居るので恰かも目の極あらい網のやうなものになつて居る、いめえましいをいく遍か繰り返しつゝ漸く突つ立てゝ仕舞つた、網にしての麁末極まつたこんなものでも鮭の進路を他にそらさない仕掛なのであるといふことだ、いま立てたのが即ちサヤといふので二百間から引つ張るのだといふ話である、さうしてさつき通つた汽船のためにいま立てた丈の間がぶつ切られたのだといふことであつた、「よにくな奴等だ、わざ/\サヤのところを通りやがつて、いめえましい畜生だといふのは苫舟へ戻るまで止まなかつた、舟へ戻つて見ると凉爐のなかには火がカン/\と起つて居て、串へさして今坂餅《いまさかもち》[#「今坂餅」は底本では「今阪餅」]がプーツと膨れ出して居たところであつた、叔父の膝元には風呂敷がひろげられて中には煎餅、柿、饅頭などが亂れてある、さうして叔父もうしろのちやんも、艫
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