の二人も煎餅をボリ/\噛んで居た、自分は燒かれた今坂餅を從弟と二人で味つた、いま乘移つた人も煎餅を噛りはじめた、軈てうしろのちやんが提げてきた二升樽の口をあけて、古ぼけた土瓶を見付け出して船ばたでばしや/\と洗つて火の上へかけた、「さつき四本も捕れたあとぢやこん夜は駄目かも知れねえな、俺はなん遍見に來たが一遍も捕るのを見ねえで仕舞つた、いつでも運が惡くつてなと叔父がいふと「それでもどんなものだか分らねえが、闇いは闇いしなんちつても靜かだから屹度來なくつちやならねえ、なあに來はじまつちや來ますからと痩せぎすな一番物の解り相な男がいつた、「こなひだ一晩に十六本さ、尤も河が違ふんですがね、こん夜豆腐屋らが張つてる所がさうさ、いま二晩ばかり過ぎなくつちや替りにならねえ、さつき夕飯頃に追つ掛け引つ掛け四本も來たんだから本當に思ひがけねえことでねと、爺さんが傍から語つた、土瓶の酒がわいたといふので艫では頻りに飮みはじめた、「河のなかぢや泊りに來るものもなくつて穩かだな、夏の頃は瓜小屋へ泊りにきた者があるなんて、おつかあが怒つて大喧嘩が起つたなんちふ話だけがと叔父が笑ひながらいつた、「よく知つてんな
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