うかと思つたので或宿屋へ立ち寄つて見ると、あなたの足ならばまだ/\彌彦までは行けるさあ/\急いで行つたがよいと其宿屋の女房が促し立てる。宿屋の女房が客にこんなことをいふといふのは全く意外であつた。然し其夜はひどい闇であつたのでとう/\途中で或家へ泊めて貰うた。さうして翌朝しら/\明に其家を立つた。夜が明けた所を見ると其家といふのは眞白にさいた蕎麥畑の間に在つて低い小さな草山が屋根へ覗き込み相になつて居る。此山は何だと家人に聞いたら此はお彌彦だといつた。余は近くへ來て見ると彌彦山がかうもつまらぬものに成るのかと驚いた位であつた。山を左に見て街道を半里ばかり來ると彌彦の神社になつた。神社の前に相接して居る宿屋も起きて間もない樣子で客が朝の參詣に出る所であつた。鳥居をくゞつて左へとつて行くと手入の屆いた杉林がある。杉林を出ると山坂で、低い峰ではあるが※[#「煢−冖」、第4水準2−79−80]廻しつゝ登る。まだ早朝のことであるから前後に登山するものは余の外にはない。頂上には棚をめぐらして中に少しばかり石が積んである。此が祭神高倉下の廟である。あたりには痩せた薄の穗が五六本疎らに立つて居て重さう
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