くなつて茂つた葦が短くなつて見える。此所で漸く橋は半分位迄來て居たのである。此橋は立派なものぢやないかと宿引へいつたら、へえ四百卅間ござりますからと宿引がいつた。橋の下には濁流が溶々として漲つて北へ海につゞいて居る。西南の方を望むと此大江の水の通ずる區域は只一帶の平野と見えて空を遮るものがない。其間に只一つの山が晴れかゝつた雲の間から射しかける夕日の空を背にして丁度水上に聳えて居るやうに見える。余は呆然として此周圍に見とれてしまつた。橋の欄干に凭れながら荷物に挾んであつた地圖を披いて見ると宿引は此時まだ余の傍に居つたのであつたが旦那あれはお彌彦山でこゝから八里ございます、丁度これに當りますと地圖を覗き込んで指しながらいつた。余が彌彦山を知つたのは斯くして此信濃川の長橋に立つてゞあつた。どうしても一度登攀して見たいといふ念が此時油然として起つた。此は九月の十三日の雨上りのことである。
九月の十九日に佐渡の赤泊の漁村から和船に便乘して越後の寺泊へ渡つた。船は白帆を張つてノタといふゆるやかな波にゆられながら舳はいつも彌彦山へ向いて居た。寺泊へついたのは丁度黄昏近くであつたが泊らうかどうしよ
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