に水に浸つたやうに見えて居る。そこに白帆が一つぢつとして止まつて居る。近くを見ると自分の居る足もとには汀について茂つた草村に野菊のやうな星月夜の花が一杯に白くさき亂れて居る。汀つゞきには二坪三坪位な青田が形ばかりに作つてある。其青田の畦には星月夜の花の草村が茂つて居る。余は手拭で括つた白甜瓜を解いて刄物がないから膝がしらへ打ちつけて割つた。對岸を見ると白帆が一つ殖ゑて居た。そこに泊つて居た船が何時の間にか帆綱を引いたものと見える。其うちに後の白帆が先になつて汀傳ひに二つ動きはじめたやうである。白帆の影は長く水に引いてこちらの岸近くまで屆かうとして瀲※[#「さんずい+猗」、第3水準1−87−6]《さゞなみ》に碎かれて居る。余は瓜の甘い汁を啜りながら白帆を見る。汁は口のうちで十分に啜つて種を足もとの草村へ吐き出した。種は散亂して田の中に落ちた。瓜の皮は水へ投げた。皮は水に落ちて白く小さく沈んだ。一體に幽邃な平和な此の水は山の姿と相俟つてどうしても、山上の湖水である。鹽田のある所を見ると濃厚な鹽分を含有して居るのであらうが汀に近く星月夜の草村が茂つて居たり僅ながら青田が作つてあつたりするとこ
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