と轉がし出した。それは白甜瓜であつた。女はすぐに松林の外へ行つて又白甜瓜を曳いて來て、無造作にごろ/\と轉がし出す。松林の外には瓜畑があるものと見える。女は散らばつた瓜を一所に聚めて積んで居る。横になつた儘見て居ると周圍の青草が耳よりも上になるので積んだ白甜瓜が其疎らな草の間から見える。石の卷からの途中は瓜畑の非常に多い所でそこにもこゝにも藁小屋が立つて居た。其畑がみんな、白甜瓜であつた。其同じ瓜でも、亂れた藁の上を偃うて半ば枯れた葉の間に轉がつてぢり/\と日光に照りつけられて居るのは見るから暑さうであるが此の松蔭の草の中に積まれたのは極めて凉しい感じである。一つ剥《む》いて見たいと思つたが途中で既にしたゝか食べたので腹がいくらか苦しくなつて居る。それでも只見捨てゝ去るのが惜しいやうな氣がしたので、女に二本ばかり無心して手拭の兩端へ括つて此も肩へ投げ掛けた。暫く休息したので足が大變輕くなつた。松林が竭きる所になると渡波《わたのは》の人家が見えて疎らな松の間から赤いフラフの勢よく空に飜つて居るのが目につく。渡波は海水浴場である。然し遠くから赤いフラフを見るのとは違つて只漁村の大きなものに
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