なき心から無雜作に決定して、あとは再び沼の水のやうな平靜の状態が長く續[#「續」は底本では「績」]きました。夫婦の間には子が幾人か生れました。爺さんの死後二人は依然として瓜を作ることを止めませんでした。瓜畑には毎年沼の水に浮んだやうな地味な小さな花が開きました。荷車を曳いて行く庄次は強健な皮膚《はだ》が暑い日に光りました。それから荷車の後を押して行くお杉さんも白かつた頬が日に燒けて脊には何時でも小さな子が首をくつたりと俛《うなだ》れて眠つて居ました。只夫婦が市場へ曳いて行く籠の中には青瓜が油ぎつたつやゝかさを保つて白瓜が依然として美しい白さを保ちながら微笑《ほゝゑ》んで居ました。
[#地から1字上げ](明治四十五年一月十五日發行、女學世界定期増刊 第拾貮卷第貮號所載)



底本:「長塚節全集 第二巻」春陽堂書店
   1977(昭和52)年1月31日発行
入力:林 幸雄
校正:今井忠夫
2000年5月10日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボ
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