つちりともなかつたのである。彼《かれ》はそれから燐寸《マツチ》を深《さが》して見《み》たが何處《どこ》にも見出《みいだ》されなかつた。彼《かれ》は自分《じぶん》の燐寸《マツチ》を探《さが》しに狹《せま》い戸口《とぐち》へ與吉《よきち》をやらうとした。與吉《よきち》は甘《あま》えて否《いな》んだ。彼《かれ》はどうしても懶《だる》い身體《からだ》を運《はこ》ばねばならなかつた。
 卯平《うへい》の手《て》もとは餘程《よほど》狂《くる》つて居《ゐ》た。彼《かれ》はすつと燐寸《マツチ》を擦《す》つたが其《そ》の火《ひ》は手《て》が落葉《おちば》に達《たつ》するまでには微《かす》かな煙《けぶり》を立《た》てゝ消《き》えた。燐寸《マツチ》はさうして五六|本《ぽん》棄《す》てられた。與吉《よきち》は其《そ》の不自由《ふじいう》な手《て》から燐寸《マツチ》を奪《うば》ふやうにして火《ひ》を點《つ》けて見《み》た。卯平《うへい》は與吉《よきち》のする儘《まゝ》にして、丸太《まるた》の端《はし》を切《き》り放《はな》した腰掛《こしかけ》に身體《からだ》を据《す》ゑて其《そ》の窶《やつ》れた軟《やはら》かな
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