《ゆ》くのでなくては勘次《かんじ》には不安《ふあん》で堪《たま》らないのである、さうして彼《かれ》はぽつさりと玄關《げんくわん》に踞《うづくま》つて待《ま》つて居《ゐ》ることがせめてもの氣安《きやす》めであつた。醫者《いしや》は小《ちひ》さな手鞄《てかばん》を一つ持《も》つて古《ふる》い帽子《ばうし》をちよつぽり載《いたゞ》いて出《で》た。手鞄《てかばん》は勘次《かんじ》が大事相《だいじさう》に持《も》つた。醫者《いしや》は特別《とくべつ》の出來事《できごと》がなければ俥《くるま》には乘《の》らないので、いつも朴齒《ほうば》の日和下駄《ひよりげた》で短《みじか》い體躯《からだ》をぽく/\と運《はこ》んで行《ゆ》く。それで車錢《くるません》だけでも幾《いく》ら助《たす》かるか知《し》れないといふので貧乏《びんばふ》な百姓《ひやくしやう》から能《よ》く聘《よば》れて居《ゐ》るのであつた。勘次《かんじ》は途次《みち/\》お品《しな》の容態《ようだい》を語《かた》つて醫者《いしや》の判斷《はんだん》を促《うなが》して見《み》た。醫者《いしや》は一|應《おう》見《み》なければ分《わか》らぬといつ
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