し》に居《ゐ》る。
 勘次《かんじ》は草臥《くたぶ》れやしないかといつてはお品《しな》の足《あし》をさすつた。それでもお品《しな》の大儀相《たいぎさう》な容子《ようす》が彼《かれ》の臆《おく》した心《こゝろ》にびり/\と響《ひゞ》いて、迚《とて》も午後《ごゞ》までは凝然《ぢつ》として居《ゐ》ることが出來《でき》なくなつた。近所《きんじよ》の女房《にようばう》が見《み》に來《き》て呉《く》れたのを幸《さいは》ひに自分《じぶん》も後《あと》から走《はし》つて行《い》つた。鬼怒川《きぬがは》の渡《わたし》の船《ふね》で先刻《さつき》の使《つか》ひと行違《ゆきちがひ》に成《な》つた。船《ふね》から詞《ことば》が交換《かうくわん》された。勘次《かんじ》は醫者《いしや》と一|緒《しよ》に歸《かへ》るからさういつてお品《しな》に安心《あんしん》させて呉《く》れといつて醫者《いしや》の門《もん》を叩《たゝ》いた。醫者《いしや》は丁度《ちやうど》そつちへ行《ゆ》く序《ついで》も有《あ》つたからと悠長《いうちやう》である。屹度《きつと》行《い》つては呉《く》れるにしても其《そ》の後《あと》に跟《つ》いて行
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