《ひとり》が卯平《うへい》に向《むか》つていつた。
「さうすりやはあ、お互《たげえ》にえゝ鹽梅《あんべえ》で疵《きず》もつかねえんだから、俺《お》れもさうは思《おも》つちや居《ゐ》んだが、此《こ》れ、いふのもをかしなもんで」卯平《うへい》の頬《ほゝ》には稍《やゝ》紅《べに》を潮《さ》して彼《かれ》は婆《ばあ》さんにいはれたことが嬉《うれ》し相《さう》に見《み》えるのであつた。
「なあに、さうだもかうだも有《あ》るもんか、えゝから、さうだ奴等《やつら》打《ぶ》つ飛《と》ばしてやれ」暫《しばら》く默《だま》つて居《ゐ》た先刻《さつき》の爺《ぢい》さんは小柄《こがら》な身體《からだ》を堅《かた》めて又《また》呶鳴《どな》つた。
「うむ、なあに俺《お》れもそれから去年《きよねん》の秋《あき》は火箸《ひばし》で打《ぶ》つ飛《と》ばしてやつたな」卯平《うへい》は斯《か》ういつて彼《かれ》にしては著《いちじ》るしく元氣《げんき》を恢復《くわいふく》して居《ゐ》た。
「さうだとも、錢《ぜね》でも何《なん》でも呉《く》んなけりや、よこせつちばえゝんだ、錢《ぜね》ねえなんちへば米《こめ》でも麥《むぎ》でも
前へ
次へ
全956ページ中805ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング